愛華さん自身、夫と別れたあと子どもを産んでいる。
俺と深雪の関係を自分に重ねてしまうのだろう。
「なんといっていいのか、子どもに愛情があるとかないとかではなくて、その……まだよくわからない感覚なので」
「そうね、女が勝手に産んだんだもの、男の人には関係ないわね」
「そんなこと思ってませんよ。
急に言われたら、どうしていいのかわからないだけで、向き合ったら感情も出てくるんじゃ」
「それじゃあ、西垣さん、別れた彼女とよりを戻して、子どもを育てるつもり?」
「まさか」
「愛ちゃん、やめて。武士さんとお義兄さんは違うのよ、一緒にしないで」
「どこが違うのよ、おんなじじゃない。
じゃぁ養育費を払おうかって、あの人、そう言ったのよ」
姉妹の言葉が刺々しくなっていく。
まぁまぁ、落ち着いて、となだめたのはハルさんだ。
ハルさんの言葉には、恋雪も愛華さんも従うのだった。
「あの、ちょっといいですか」
「はぁっ? はい」
矢部さんが声をあげた。
第三者がなにを言うんだと思ったが、愛華さんが連れてきた人だから邪険にはできない。
矢部さんも愛華さんに特別扱いされていると思っているのか、態度がどことなく大きい。
司法書士だったか、行政書士だったか忘れたが、法律に詳しい人であるらしい。
40歳をいくつか超えた顔には、それなりの自信が漂っている。
矢部さんもバツイチで子どもを引き取ったそうで、「愛華さんとよく似た境遇ですから、僕には愛華さんの気持ちがよくわかります」 と強調していた矢部さんは、私の経験から話をさせてもらうと……と前置きして話をはじめた。
「こうだったら、あぁだったらと、仮定で話しても、何の解決にもならないんじゃないでしょうか。
西垣さんが以前お付き合いしていた女性が、あなたの子ですと言ってきたなら、その時考えればいいのでは?」
「でも、それでは誠意がない。やっぱりはっきりさせて」
「まぁ、聞いてください」
「はぁ……」
「先方からなにも言ってこないということは、たとえ西垣さんとの子どもであっても、彼女は、あなたに責任や義務を負わせるつもりはないのでしょう。
あちらはすでに結婚しているようですし、家庭を壊すつもりはないということですよ。
彼女の配偶者も、それを望まない。いまさら父親面されても迷惑なだけです」
「父親面って、俺はそういうつもりで言ったんじゃありません」
「気分を害されたのならすみません。
でも、法律がどうのというまえに、気持ちが大事なんじゃないですか?
西垣さんだって、いまは恋雪さんというパートナーがいるんですから、恋雪さんとの関係を第一に考えるべきだと、僕は思いますね」
整然とした話ぶりに、みな耳を傾けた。



