冬夏恋語り



恋雪の腕にひかれ、稲荷神社の参道から脇道へ入った。

小さな公園の奥のベンチに、重い気持ちで座り込み頭を抱えた。

寒空にさらされたベンチは冷え切って、座面から冷気が伝わってくる。

公園に人はおらず、表参道の賑わいも公園までは届かない。



「さっきの子、どこかで……」


「ウチの学生だよ」


「あっ、思い出した、『なすび』 の前で、武士さんの腕につかまって、アイカって呼んでって言ってたあの子ね。

学祭のメイドカフェのチケットを渡したり、西垣先生の気を引きたくて一生懸命なんですね。

それにしては深刻な顔だったけど、悩みの相談でもされたの?」


「そんなんじゃない!」



面白がるような恋雪へ、思わず声を荒げた。



「どうしたの?」


「はぁ……北条愛華に関わると、ろくなことがない。なんてことだよ……」



ファミレスのバイトをしていた北条愛華に、深雪との別れを決定的にしたケンカの場面を目撃されたことは、以前恋雪に話した。

北条愛華は深雪の知り合いで、俺たちが婚約を解消したことも、その後深雪がほかの男と結婚したことも知っている。

深雪の現在の暮らしぶりも、北条に聞けばわかるだろうが、そんなことを聞いてなんになる、俺たちの道は分かれたのだからと、そう思っていた。

子どもが生まれたって? 俺に似てる?

なんで今頃言うんだ、もっと早く言ってくれよ、俺はどうしたらいいんだ……



「別れた彼女に子どもが生まれていた。俺に似てるらしい」


「あの子が言ったの?」


「子どもが生まれたことも知らなかったのか、お姉ちゃんが可哀そうだって言われた。

子どもは女の子だって」


「赤ちゃんのお父さんは、本当に武士さんなの? 深雪さんが言ったの?」


「北条が聞いたんだろう。深雪がウソをつくはずがない」



恋雪の疑うような声に、少しばかりムッとした。



このとき、恋雪が知るはずのない深雪の名前を出したことに、何の疑問も持たなかった。

子どもが生まれたと聞かされ、それが俺の子かも知れないとの思いにとらわれていた。



「深雪さんに確かめたの? もしそうなら、ちゃんと聞いた方が」


「そんなこと、いまさら聞けるか!」


「どうして? 聞かなきゃわからないでしょう」



恋雪は子どものことを信じたくないのだろう、疑問視する言葉を投げかける。

それが無責任な発言に思えて不快だった、



「恋雪は、深雪がウソを言ってると思ってるのか」


「深雪さんじゃなくて、さっきの彼女が、武士さんを困らせるために言ったかもしれないじゃない」


「どうしてそんなこと言う必要があるんだよ」


「あの子は西垣先生を好きだからよ。私と一緒にいたのを見て、嫉妬したんだと思う」


「そんな単純な問題じゃない」


「どこが単純? 女の子って、自分を見てほしくて、そういうこと言うのよ」


「バカバカしい」


「バカバカしいって、武士さん、女の子の気持ちがわかるの?」



わからないね、と言い返そうとしたとき、携帯が鳴った。

ミヤさんからだった。



『タケちゃん、今日、まさか欠席ってことはないだろうね。必ず来るように、待ってるよ』



新年会参加の念押しの電話だった。

開始時刻まであと40分、平行線のやり取りを一時中断して、俺たちは新年会の席となっているホテルへ向かった。

ホテルまで徒歩で10分、俺も恋雪もだまったまま、来た時のように手をつなぐこともなく、拳を握りしめて黙々と歩いた。