冬夏恋語り



正月5日にもなると、参拝客は少ないのではないかとの予測は見事に外れた。

初詣客の数で上位に数えられるだけあって、広く名の知られた稲荷神社は今日もにぎわっていた。

参道には屋台が並び、どの店も人だかりで、手をつないでいなければ離れ離れになるほどの込みようだ。

拝殿にたどり着くまで、人の波をかき分けていかなければならない。

これだけの人だ、知り合いにも会うだろうと思った矢先 「先生」 と声をかけられた。

とっさに手を離し、”向うで待ってます” 口だけ動かしそう伝えてきた恋ちゃんへうなずいてみせ、俺たちはしばし離れた。

男ばかり連だってやってきたという5人組に囲まれ、少し立ち話をして別れ、恋ちゃんは……と探すと、ずいぶん遠くにいるのが見えた。

俺を見失ったのか、反対方向へ歩き出そうとしている。



「こゆき、こゆき」



思わず声が出ていた。

声に気がついた顔が振り向き、大きく手を振って応えている。

満面の笑顔へ、手を振り返した。

その時の俺は、にやけていたに違いない。

緩みきった顔で恋雪の方へ歩き出そうとして、「西垣先生」 と呼ぶ聞き覚えのある声に足を止めた。



「おめでとうございます」


「おっ、北条さんか。おめでとう、今年もよろしくな」


「先生、彼女いるんだ。ふぅん……」



北条愛華が冷ややかな目で俺を見た。



「彼女と初詣とか、のんきですね」


「初詣くらい、いいだろう」



恋雪との声の掛け合いを見られたようだが、恥ずかしがっている場合ではない。

なんでもないように、ぶっきらぼうに返した。



「べつに、いいですよ、初詣くらい。深雪お姉ちゃんが可哀そうだなって思っただけです」


「えっ?」


「知らないんですか?」


「なにを」


「深雪お姉ちゃん、赤ちゃんが生まれたんですよ」


「子どもが生まれたのか……」



聞き返しながら声が震えた。

彼女が言いたいことはもうわかっているのに、気付かない顔をした。

そんな自分を嫌悪しながら、取り乱すものかと踏ん張っている。



「女の子の赤ちゃん。先生に似てるかも」



それだけ言うと、北条愛華は俺を睨み付けて走っていった。

そばに来た恋雪が俺の腕をつかんだ。

複雑な顔で俺を見上げるが、彼女はなにも言おうとしない。

沈黙は嵐の前触れか、それとも、呆れて言葉もないのか。

深雪の子どもの父親は……

渦巻く思いを整理しきれず、参道のど真ん中に立ち尽くしていることも忘れていた。

恋雪に腕を引っ張られ、ようやく足を動かした。

正月の冷たい風が頬を叩いて吹き去った。