押すな押すなの大盛況とまではいかないが、客足が途絶えることはなく、初商いはそこそこの賑わいとなっていた。
麻生家の末っ子翔太君と一緒に、愛華さんの息子の龍太君もはっぴを着て手伝いをしており、ふたりは店の前で呼び込みの真っ最中、若く威勢の良い声が響いている。
店内も人の声であふれ、内輪話をしても聞かれることはなさそうだが……
「そんで、本当のところはどうなのよ。夜這いか、通い婚の練習か。
一緒に住むのを、えっと同棲って言うんだっけ?」
ミヤさんの口からとんでもない単語がどんどん出てきて、小声であるが周囲に聞こえやしないかと冷や冷やした。
「その話はちょっと……今日はここの親父さんもいるので、勘弁してくださいよ。
新年会で報告しますから」
「本当だね?」
「ウソは言いません」
ミヤさんの目を見て、男の約束をした。
恋ちゃんにお父さんを紹介されて、まずこちらから頭を下げて、と思っていたら、「娘が大変お世話になりました」 と先に丁寧な挨拶をされた。
俺のことをどんな風に話してくれたのかわからないが、交際相手ではなく 「元婚約者の家と縁を切る手伝いをしてくれた人」 というところか。
恋愛の密度は交際期間の長さに比例するとは思っていないが、まだ交際期間一ヶ月では、親父さんの前で胸を張れないと言うのが正直な気持ちだった。
そう思いながらも、ミヤさんたちには俺たちのことをわかってもらいたい。
「よし、わかった。新年会、楽しみにしてるよ。途中で帰ったら許さないよ」
「わかってます」
大の男が顔を寄せてささやき合うさまは、内緒ごと以外のなにものでもない。
俺たちの怪しい動きに気がついた愛華さんが 「あら、楽しそうですね。私にもあとで教えてくださいね」 と色っぽい目尻を下げながら声をかけた。
この人の声には、嫌と言えない威力がある。
着物姿の今日は、それでなくても貫録があるのに。
恋ちゃんも着物を着ているが、愛華さんとは違った雰囲気をたずさえている。
清楚ですっきりした佇まいが彼女の魅力だ。
髪を結いあげた襟足に仄かな色香を漂わせ、俺はやっぱり恋ちゃんの方がいい、なんてことを思うのだ。
彼女のどこを好きになったのか、今まで意識したことはなかったが、どんな色でもない、しいて言えば透明感のある雰囲気と、こちらの気持ちに寄り添ってくれる優しさがいい。
俺だけが感じる恋ちゃんの魅力とでもいうのだろうか、などと自惚れも多分に入った分析をしてしまうのだから、俺は思った以上に惚れているらしい。



