冬夏恋語り



恋ちゃんの彼、貴之さんとの最後の会話は、彼女を苦しめていた。

別れようかと言われ、うん、と言ったから、おぼれた子どもを助けようという無謀な行動に出たのではないか。

その結果、子どもは助かったが、彼が犠牲になった。

あのとき、うん、と言わなければ、結果は違っていたのではないか。

そんな堂々巡りを三年間続けている。

恋ちゃんの問いかけに答える人はもういない。

彼女の苦悩は深まるばかりなのに……


自分の気持ちや悩みを、これまで誰にも話したことはなかったそうだ。

貴之さんの家族に言えるはずもなく、恋ちゃんの両親や姉の愛華さんにも話していない。

話したところで 「いまさらどうにもならない、忘れなさい」 と言われるだけだからと彼女は言うが、

家族に心配をかけたくないから言わなかったのではないか。

貴之さんの家族と、いまだに関わっていることについても、



「私のせいで、彼が亡くなったかもしれない、だから……」



できるだけのことをしようと思ったそうだ。

償いをしようとしている彼女は、どんな罪を犯したと言うのか。

思い詰めて、自分に非があると思い込んでいることに、恋ちゃんは気がついていない。


一昨夜も、ずっと自分を責めていた。

酔いでふらつく恋ちゃんの体を、俺はとっさに抱き止めた。

ぼろぼろと涙をこぼし、緊張の糸が切れた体は、立っていることも辛そうで、彼女を抱えてコタツに座らせ並んで座った。

支えていなければ横に倒れてしまいそうなほど、彼女は気力を失っていた。

それでも気持ちを吐き出すように語ったのは、俺に聞いてほしかったからに違いない。



「指輪を形見だといって渡されたときは、こんなのもらえない、別れるつもりだったのに、返さなきゃと思ってたけど……

指輪を見て、自分のしたことを思い出しなさい、彼を忘れちゃダメだって、神様が私に言いたかったのかも。

手放したくても手放せない物ってあるでしょ? 見えない力が働いてるんですね、きっと」



だから彼のお姉さんが、恋ちゃんの伝言を三年間も親に伝えずにいたことを許すと言うのか。

どうして恋ちゃんがそこまで自分を責めるのか、俺にはわからない。



「その神様って、どこにいるの?」


「どこって……わからない。けど、私に試練を与えているのよ。

よく言うでしょう、乗り越えられない試練はないって。

私には、乗り越えられる力があるから、だから頑張らなきゃ」


「いつまで頑張るつもり? 終わりはないよ。恋ちゃんだってわかってるはずだ」


「……でも、頑張るしかないの。私が我慢すれば上手くいくから」



恋ちゃんは、いまだに負の連鎖から抜け出せずにいる。

指輪が手元にあるから、辛い過去を思い出し、自分を責めてしまうのだ。

これでは、いつまでも彼女は足踏みしたままだ。

一歩を踏み出すためには、背中を押す誰かが必要だ。

俺がその誰かになればいい、彼女の背中を押して、前へ押し出す。

その先で彼女が立ち止まったら、俺が先になって手を引こう。

そう決めたら、俄然元気が出てきた。


その時の俺は、誰かのために何かをすることで、自分の存在価値を確認したいと思っていた。

その誰かが恋ちゃんだから必死になっているのに、そんな自分に気がつきもせず、「婚約指輪返還計画」 を懸命に考えた。