「じゃ!行ってくるね!」



「…菜々美!これ、あげるわ。」



「…バレッタ……?」


それはベージュの生地に
白のレースがあしらわれ、
小さな花の飾りがたくさん付けられた
可愛らしいバレッタだった。



「……そう。
お父さんがお母さんと付き合ってから
初めてのお母さんの誕生日に
少ないおこずかいで買ってくれた
バレッタなの。」



お母さんとお父さんは
高2の夏から付き合っていて、
大恋愛の末、大学卒業を機に結婚した。


恐らく高2の冬のお母さんの誕生日に
お父さんが買ったものだろう。



「結婚して菜々美が生まれてからは
子育てに忙しくて
どこかに出かけたりもできなかったから、
このバレッタも長い間
付けられなかったんだけど。」



「……」



「いつか菜々美が
このバレッタが似合うような
素敵な女の子になったら
これをあげようと思っていたの。」



「…お母さん……」



「それを目標に、
今まで菜々美を育ててきたのよ。」


そう言ってお母さんは
私の手からもう一度バレッタを取ると
私の髪にそっと付けてくれた。