少し落ち着いてきて、美奈はこれからどうするかを考える。

診療所には戻れない。

まだあの男が徘徊しているかもしれないのだ。

恐ろしくて戻る気になれない。

この便所の個室からも、出る気にはなれなかった。

ここにいる事が見つかっていないから、安全に思えるだけかもしれない。

外に出てあの男と鉢合わせたりしたら、どうなる事か。

かといって、ここに永遠にいる訳にもいかない。

美奈は全身を両手で探って。

「…あった」

運よくスマホを所持にしていた事に安堵する。

これなら連絡が取れる。

誰かを呼ぼう。

警察に連絡すれば、すぐに駆けつけてくれるに違いない。

歌舞伎町には、交番が沢山あるのだ。

「110番…110番…」

スマホのタッチパネルを、震える指で押す。

と。

「……」

その画面に、何か映り込んでいる。

画面を覗き込んでいる美奈の顔。

そして、それより上から覗き込んでいる、血走った眼…。