「~~~~~っっ!」

塞いだ手の中で、くぐもった悲鳴を上げる美奈。

幸いまだ両手は封じられていない。

白衣のポケットの中のメスに手を伸ばし、思い切りその手を突き刺してやろうとするが。

「静かにっ」

耳元で小さく囁く男の声。

「騒ぐと見つかる…静かに、声を出さないで」

それは中毒者とは明らかに違う、正気を保った人間の声だった。

中毒者ではない。

美奈と同じ、まともな人間。

その事を理解し、彼女はコクコクと頷く。

…息を殺していると、壁の向こうを歩く、引き摺ったような足音。

不明瞭な声を上げて、美奈を探しているようだ。

しかしバスソルトによる中毒症状によって、知能まで低下しているのか。

そこまで細かく探す事もなく、中毒者はどこかへ去って行ってしまった。