最後まで聞いてみたものの、マナトはやっぱり、さっぱり、訳がわからないといった風だ。
しかめっ面のまま、スフレを凝視するマナトの肩に手を置き、ジョアンが優しく微笑んでいた。
「つまりはこういう事、”たった一切れのスフレでさえ、君を魂ごと別世界へと送りこんでくれる “・・・」
そう言ってワンスクープ、スフレを口に運んだジョアンは、幸せそうにほほ笑んだ。
マナトも、 つられてフッと笑みをこぼしていた。
だけど・・・
僕はその隣で、この楽しい時間が束の間の夢だということに気がつき始めていた。
あれから、30分、1時間経っても、ミューが姿は一向にない。
僕はもう一度望みを込めて図書館の出入口を見つめたが、ため息しか出てこなかった。
「それじゃ、私はそろそろ失礼するわ、今日中にここを発たなければいけないの」
そう言ってもう一度おじいさんがマダムの手に唇を寄せると、全員で出入り口まで彼女を見送りに出た。
「お会い出来て本当に光栄です」
僕が言うと、後ろからマナトがジョアンに手を差し出した。
「はなし、面白かった!」
ジョアンは再び僕たちを交互に見つめて満足げにほほ笑んだ。
「あの、最後に一つだけ・・・どうしてここに?」
僕の最後の質問に、マダムが当然でしょと言わんばかりに向き直った。
「来る必要があったからよ」
「それって・・・?」
言いかけた僕に、そっと手をかざした。
「また会えるわ、きっと。多分そう遠くないと、信じたいわね」
彼女はそう言い残し、不敵の笑顔を浮かべて図書館を後にした。
「それにしても、不思議な人だったな・・・あの目!僕は黄色ですってよホホホホ」
彼女を見送った後、僕たちは再びコモンルームに戻った。
マナトはソファーの上に寝そべって、折りたたんだ地図を眺めながらリラックスしている。
朝おじいさんに頼んでおいた地図だ。
彼が庭いじりを始めたので、人が来たら呼んでもらうように頼んでおいた。
きっと彼女とお茶をしながら、庭に気なる所でも発見したのだろう。
「お前はさ、マダムの言った事どう思う?」
こちらを見もせずにマナトが言った。
「さーね」
僕は対面に置かれたソファーに腰掛ける。
「さーねってこたーねぇだろ?」
「お前、マダムの言ったこと覚えてるか?」
マナトは眉間にシワを寄せて顔をこちらに傾けた。
「彼女は万人に当てはまることしか言ってない。誰にだって忘れてる事や、探し物はある。選択する自由も」
今度は、僕の方を指差したマナトが鋭い瞳を僕に向ける。
「お前の性格を言い当てた」
「そんなの今時メンタリストでも出来るぞ」
僕の言葉にマナトは鼻で笑って、再び体をソファーに押し込める。
「俺はマダムを信じるな、なぜならお前は“考え過ぎ ”だから」
そう言って今度は違う方向に地図を折り曲げた。
「しかしすげぇーよな、人生経験積んだ人は違うっつーか・・・」
ここでマナトがソファーからまた少し上体を起こし、意味ありげにニッと僕に向かって歯を見せた。
「けどよ、もし決断のドアノブがあるならさ、俺達、第一関門突破じゃね?あの時、やっておけばよかったと嘆く後悔もまた、一瞬にして永久(とわ)なる不幸へと変わる前に。ってね」
“そう考えられるマナトもすごいよ。”心の中で呟いて、結局僕は、それを言葉には出来なかった。
その先を見据える準備が出来ている人間と、出来ていない人間の差が、果てしなく大きいことに、気づいたからだ。
「まぁ、どっちが正しいかはその内わかるさ」
僕はマナトの余裕の態度に煮え切らないまま、話題を鐘に変えることにした。
「そういえば、俺、あの鐘の音聞いたことあった」
飛び起きると、マナトは僕を再び見つめている。
怒るべきか、先を聞きたいのか、迷っている顔だ。
「で?」
必死で冷静さを装っている様だが、その表情からは期待が勝った様だった。
「学校の放課後終わりのチャイムだと思ってた。あの時お前が言った言葉で聞き覚えのある音だって思い出したけど・・・特に気になんてしなかったから・・・」
マナトはつまらなさそうに再び体をソファーに押し込めるが、僕の次の言葉は予想出来なかったはずだ。
「だけど、鐘の音と共に思い出したことがある。」
僕はゆっくりとマナトに目を向けた。
「俺が最後にミューと会った、最終日だ」
マナトはやっと期待できる話が出たと、ソファーにキチンと座りなおして、静かに僕の話に耳を傾けた。
しかめっ面のまま、スフレを凝視するマナトの肩に手を置き、ジョアンが優しく微笑んでいた。
「つまりはこういう事、”たった一切れのスフレでさえ、君を魂ごと別世界へと送りこんでくれる “・・・」
そう言ってワンスクープ、スフレを口に運んだジョアンは、幸せそうにほほ笑んだ。
マナトも、 つられてフッと笑みをこぼしていた。
だけど・・・
僕はその隣で、この楽しい時間が束の間の夢だということに気がつき始めていた。
あれから、30分、1時間経っても、ミューが姿は一向にない。
僕はもう一度望みを込めて図書館の出入口を見つめたが、ため息しか出てこなかった。
「それじゃ、私はそろそろ失礼するわ、今日中にここを発たなければいけないの」
そう言ってもう一度おじいさんがマダムの手に唇を寄せると、全員で出入り口まで彼女を見送りに出た。
「お会い出来て本当に光栄です」
僕が言うと、後ろからマナトがジョアンに手を差し出した。
「はなし、面白かった!」
ジョアンは再び僕たちを交互に見つめて満足げにほほ笑んだ。
「あの、最後に一つだけ・・・どうしてここに?」
僕の最後の質問に、マダムが当然でしょと言わんばかりに向き直った。
「来る必要があったからよ」
「それって・・・?」
言いかけた僕に、そっと手をかざした。
「また会えるわ、きっと。多分そう遠くないと、信じたいわね」
彼女はそう言い残し、不敵の笑顔を浮かべて図書館を後にした。
「それにしても、不思議な人だったな・・・あの目!僕は黄色ですってよホホホホ」
彼女を見送った後、僕たちは再びコモンルームに戻った。
マナトはソファーの上に寝そべって、折りたたんだ地図を眺めながらリラックスしている。
朝おじいさんに頼んでおいた地図だ。
彼が庭いじりを始めたので、人が来たら呼んでもらうように頼んでおいた。
きっと彼女とお茶をしながら、庭に気なる所でも発見したのだろう。
「お前はさ、マダムの言った事どう思う?」
こちらを見もせずにマナトが言った。
「さーね」
僕は対面に置かれたソファーに腰掛ける。
「さーねってこたーねぇだろ?」
「お前、マダムの言ったこと覚えてるか?」
マナトは眉間にシワを寄せて顔をこちらに傾けた。
「彼女は万人に当てはまることしか言ってない。誰にだって忘れてる事や、探し物はある。選択する自由も」
今度は、僕の方を指差したマナトが鋭い瞳を僕に向ける。
「お前の性格を言い当てた」
「そんなの今時メンタリストでも出来るぞ」
僕の言葉にマナトは鼻で笑って、再び体をソファーに押し込める。
「俺はマダムを信じるな、なぜならお前は“考え過ぎ ”だから」
そう言って今度は違う方向に地図を折り曲げた。
「しかしすげぇーよな、人生経験積んだ人は違うっつーか・・・」
ここでマナトがソファーからまた少し上体を起こし、意味ありげにニッと僕に向かって歯を見せた。
「けどよ、もし決断のドアノブがあるならさ、俺達、第一関門突破じゃね?あの時、やっておけばよかったと嘆く後悔もまた、一瞬にして永久(とわ)なる不幸へと変わる前に。ってね」
“そう考えられるマナトもすごいよ。”心の中で呟いて、結局僕は、それを言葉には出来なかった。
その先を見据える準備が出来ている人間と、出来ていない人間の差が、果てしなく大きいことに、気づいたからだ。
「まぁ、どっちが正しいかはその内わかるさ」
僕はマナトの余裕の態度に煮え切らないまま、話題を鐘に変えることにした。
「そういえば、俺、あの鐘の音聞いたことあった」
飛び起きると、マナトは僕を再び見つめている。
怒るべきか、先を聞きたいのか、迷っている顔だ。
「で?」
必死で冷静さを装っている様だが、その表情からは期待が勝った様だった。
「学校の放課後終わりのチャイムだと思ってた。あの時お前が言った言葉で聞き覚えのある音だって思い出したけど・・・特に気になんてしなかったから・・・」
マナトはつまらなさそうに再び体をソファーに押し込めるが、僕の次の言葉は予想出来なかったはずだ。
「だけど、鐘の音と共に思い出したことがある。」
僕はゆっくりとマナトに目を向けた。
「俺が最後にミューと会った、最終日だ」
マナトはやっと期待できる話が出たと、ソファーにキチンと座りなおして、静かに僕の話に耳を傾けた。
