「で、今日の収穫は?」

僕はどうでもいいメモを片手に、黙って肩をすくめた。

あれからどれだけ街を駆けずり回っただろう、その努力も空しく、未だ何の収穫もない。

誰に聞いても、どこに行っても、彼女の消息は未だ不明。
マナトは喉の奥からガラガラと声を出しては、頭を掻き毟っている。

「ここでこんなんじゃ、この先が思いやられるな・・・」

思わず情けない声を出すが、何て言おうと、どうあがいても、もう後戻りはできない。

僕は観念して、彼女が何を求めているのかに気づかなくてはいけなかった。
これ以上は無視できない。

もしこれが、昔からの約束なら・・・?

僕が完全に何かを見落として、あるいは忘れ去ってしまっているとしたら?

そう考えただけでも背筋が凍るばかりだったが、そんなことで自殺を考えるほどバカな女性ではないと、僕は自分に言い聞かせるのがやっとだった。

この2日、見返すことのなかった日記を、僕は力なくもう一度パラパラと捲ってみる。

またあの手紙がスルリと日記から滑り落ちた。
拾い上げたのはマナトだ。

「だけど・・・この手紙って、暗号か何かか?」

「わからん!」

限界状態の僕は、投げやりに答えるしかなく、マナトがため息とともに、勢いよくイスに倒れこみ、そのはずみで辺り一帯に置いてあったメモが軽く宙を舞っても、拾い上げる気力もない状態だった。

机にうなだれたたまま、マナトは早くも泣きそうな顔だ。

「結局、何にもわからず仕舞い・・・ほんとに彼女は無事かなぁ~?来て欲しいと思ってるとも考えづらい気がしてきた・・・」

「俺が、始めに忠告したことだよな?」

罰の悪そうなマナトの顔。

その時、マナトがヒラヒラと手に持っていた例の手紙を見つめ、弾けるように席を立った。

「おいっ!彼女の手書きのあのメモ貸してくれ!今すぐ!!」

僕は散乱したテーブルを睨みつけ、ぶつくさ言いながら探し出した。

「言っとくが、あれには何の手がかりも書かれてなかったぞ、何回か読んだけど・・・」

マナトはそんな僕の言葉を遮るように呟いた。まるで上の空のような感じだ。

「そうでもないとしたら・・・?」

マナトはやっと見つけ出したどうでもいい走り書きを勢いよく僕の手から奪い取ると、弾けるように僕の顔を見つめた。

まるで幽霊でも見たかのような顔だ。

「お前この手紙何回読んだ?」

いったい何なんだ?と僕はマナトの肩越しに、その両手にかざされた紙を見比べた。

「バッカ!よく見てみろ!最後の一節・・・」

注意深く目を細めた僕はハッとして思わずマナトの顔を見返した。


“私はそこで待ってます。いつまでも、いつまでも。”


「彼女の字だ!!」

僕たちは同時に声を上げた。よく似せて書かれてあったが、そこから右の文章より、まだ真新しい鉛筆で書かれてることと、字体が全く違うことに気がついた。

ミューの字体と一致している。
僕たちは同時にイスに倒れこんで、思わず笑った。

とりあえず、あの地へ再び訪れる理由が見つかったのだった。

これで、彼女が無事な内は、思いの外上手くいくのだと、僕たちは希望を胸に抱いた。