ロールキャベツ


「良いことを教えてあげるわ」

そう言って、微笑んだ。

少しだけ聞くのが怖い。恐る恐る何か、と問う。

「お父さんのことよ。見方が変わるんじゃないかしら」

誇らしげな表情の小島さん。
どう見方が変わるというのだろう?


「朋香ちゃんの、いつかの誕生日。お父さんにロールキャベツを作ってもらったことがあったでしょう?」

「…ありましたね、5歳の誕生日」

「なんだ、ちゃんと覚えているんじゃないの」


覚えているというか、忘れられないだけなのだけど…

さらに私は、その思い出に縛られて生きてる。
ロールキャベツが、あの人を思い出させるから…


「お父さんはね、全く料理をなさらなかったのよ」

え…?

確かにずっと、料理をしている姿は見てこなかったけれど、あのロールキャベツは普通に美味しかった。

初めて作ったのに、あんなに上手に出来るものなの?

「頼んでこられたのよ。朋香ちゃんにご飯を作ってあげたいから、料理を教えてくれって」

「お父さんが、ですか…?」

「ええ、あのときロールキャベツが好きだったでしょう?だからそのレシピを教えたのよね。

お父さん、何度も練習なさったのよ」


まさか…私のために?

あの頃はまだ起業して間もない頃だったと聞いた。すごくすごく、忙しかったんだろうに、そんな暇があったのかな…


「朋香ちゃんは知らないだろうけどねー…

保育園に行っている間に練習なさって、

朋香ちゃんが帰ってきたあとに仕事されてたのよ」

日だまりのような笑顔で言われる。

そういえばあの頃、よく家で仕事をしていたっけ。
クレヨンで絵を描いていた私の隣で、文字がずらっと並んだ書類に目を通していたのを思い出す。

子供だから、そんな状況に疑問を持つことがなかったんだ。


「それとね、私はいつもトマト味のロールキャベツを作っていたのは覚えている?」

「はい。…でもお父さんが作ってくれたのって」

小島さんがレシピを教えたのなら、トマト味のものを私に作ってくれたはず。だけどあの日食べたのは、透き通ったスープのロールキャベツだった。それは間違いない。

「コンソメ味よ。お父さんがね、朋香ちゃんの記憶に残るように特別なものにしたい、っておっしゃったの」

だから小島さんに作ってもらったことのない、コンソメ味のものを…?


「その願いが叶ったのね。

朋香ちゃん、鮮明に覚えているものね」

小島さんの言う通りだ。

私の中でしっかりと記憶に残っている、忘れられない思い出になっている。