注文した定食を口に運びながらも、小島さんとの会話は絶えない。
小島さんは家によく遊びに来ていたあさみのことを覚えていて、写真を見せたら、
「あさみちゃんも綺麗になったわねぇ…」
と感心していた。
あさみにも会わせてあげたかったな、と思う。
あさみと二人で小島さんに料理を教わったこともあった。不器用なあさみは、いつも失敗していたけれど。
今となっては私が教えているけど、この間あさみがクッキーを焦がしたことを話すと、小島さんは笑っていた。
「お父さんはお元気?」
小島さんの何気ない質問に、口をつぐむ。
聞かれたくないことを聞かれた。
絶対この話になるって、分かっていたけれど…
私が何も言わないでいると、小島さんが困ったように笑う。
「その調子じゃ、暫く会っていないのね」
決して叱ったりはしない。ダメよ、と優しく眉を下げるだけ…
もう7年も会っていない、だなんて口が裂けても言えなかった。
「何も知らせがないので…元気にはしていると思います」
「じゃあ埼玉にも帰っていないの?」
「今年に入って2度帰りました…、会わなかったですけど」
小島さんはまた、力なく笑う。
「なんとなくは気づいていたわ。だけど思春期だからだと気にしないようにしていたの」
そりゃあそうか、毎日何時間もあの家にいたのだから、独特の空気に気がつかない訳がないのだ。
思春期の女の子は自然と父親を避けるものだ。
今も私は思春期…とはいかない。
小島さんはきっと、予想くらいはついていたのだろうな。
あの人のことを避けるようになったのは、小学校5年生くらいからだった気がする。
世に言う思春期に入る年頃。
それまでは純粋にあの人が好きだった。
成長するにつれて変わっていく私と、あの人の間にいた小島さんに、気を遣わせてしまっていたのは胸が痛い。
「会いにいってあげたら、きっと喜ばれるわよ」
「そんなこと…」
「きっかけがないのなら、難しいけれどね」
そう言いながらも、やっぱり私があの人に会いに行くことを望んでいるんだな…と、
「だけどあなたのたったひとりの家族よ」
この言葉を聞いて思った。
小島さんの言葉だからこそ、逃げ出さずに聞いていられるんだろう。
実行に移すかは別だとしても、このままの関係じゃいけないことくらい私だって分かっているのだ。

