休憩室を覗くと、まだ森崎さんがいた。
何か言われるんだろうな…
そう思いながら、コーヒーを飲みっぱなしにしたままだったから戻らざるを得なかった。
「何て電話だったんだ?」
マグカップをシンクに持っていくと、自分で淹れて飲んだらしいマグカップを持ってきた。
断るのも面倒なので、森崎さんの分も洗う。
「私今日夜勤入りますね」
「は?何言ってんだよ、今からデートだろう?」
「察してくださいよ」
暫く考えるように黙りこんだあと、さっきまでと同じ不気味な笑顔を見せてきた。
「ドタキャンされて落ち込んでんだ?」
返事が面倒くさいのか、図星だからなのか、どうも今は森崎さんに付き合う気にはなれない。
「どうしたどうした、いつも強気な吉良ちゃんなのに」
笑わそうとしているのかも知れないけれど、今は全然笑えない。たかが友達から約束を断られただけなのだ、どうってことないなんて笑えない。
何も返さない私にからかうのが飽きたのか、柄にもなく洗ったマグカップを布巾で拭き始めた。
「じゃあ、タダ券どうするんだ?
たしか有効期限明日までだったよな?」
「明後日までです」
「いや、そこかよ…」
「あさみと行かれます?あげますよ」
「いやいや。俺からのプレゼントだぞ?
お前が使わないと意味ないよ」
「まぁ、そうですね…」
今度いけばいいと言えないから、絋にも返す言葉がなかった。
行きたいと言ってくれたときの絋の嬉しそうな顔を見たとき、私も嬉しかったんだけどなぁ…
「無駄にならないといいな」
マグカップを拭き終わって、森崎さんはフロントに戻っていった。
いつも最後に優しさを落としていくんだよね。
こういう所が、あさみは好きなのかなと思った。
さて、私も仕事に戻ろう。
セットしてあった巻き髪を低い位置で結んで、更衣室に入って制服に着替える。
ふと鏡に映った自分の顔が、とても不細工に見えた。
何が、そんなにも悲しいの?
忙しいのを理由に約束を断られることは、慣れていたはずでしょ…
あの人でもう十分わかっていたはずでしょう?
そうだ。私が怖いのは
大切な人が離れていってしまうことなんだ。

