ビュウッと音が聞こえるぐらいの風に、コートの袖をギュッと握りしめた。
ワンコールで電話に出たあさみは、相当暇そうだった。
まぁ、この年になって実家に帰ったところでね…
「もうね、最近の子はすごいすごい。
うまいこと私を褒めて物買わせようとするんだから」
今日は甥っ子にまあまあの値段のおもちゃを買わされたらしい。
なんだかんだ言いながら、あさみが甥っ子にデレデレなだけでしょ。
「今年、あさみの実家に挨拶来るの?森崎さん」
「来る来る」
「あの人主任なのに年末年始いなさすぎだよ」
「言っておいてあげる」
「やめて、一応上司なんだから」
あさみの恋人は、私の上司。
あさみの実家に挨拶に来るってことは、そろそろ結婚?
まさか私と一緒にゴールインだったりして。
それって結構、おもしろいよね。
そんなことを考えながら、あさみの話に耳を傾けていた。
「それでさ、朋香、どうするのよ」
少しあさみの声のトーンが落ちて、すぐに何の事か分かる。
クリスマスの日に長い勤務を終えたあと、
恋人からの言葉に戸惑ってあさみに相談した。
どうすればいいかなんて、分かってる。
だけど実行できないから、困ってる。
「どこまで話してるの?家のこととか」
「…」
「まさか、何も話してないの?!
嘘でしょ?
朋香って、もうすぐ2年ぐらいの付き合いでしょ?」
あさみの言う通り。
婚約者の彼とは、2月で付き合って丸2年になる。
「どうして…?言えない理由でもあったの?」
「特にないけど…タイミングがなかったっていうか」
「そんな問題?」
私の答えに呆れるあさみが、冷静に聞いてくる。
「父子家庭ってことは?」
「言ってない。普通に両親がいると思ってる」
「その父親と…
仲がよろしくないってことは?」
「…言ってない。私のこと、家族思いの優しい女だと思ってる、違うのに」
あさみのため息が、体を冷やすどの風よりも耳に入ってきた。