ロールキャベツ


照明を目一杯明るくしたカラオケボックスの広い室内には、大体20人くらいがいる。

大学時代に属していたオールラウンドサークルの集まり。
昔は1回生から4回生まで大人数で集まっていたものだが、今では同い年の面子だけで集まるようになっていた。

忙しくて全員が集まることはまず無いが、それでも大学時代に戻ったような自由で開放的な気持ちになれるから、私はこの集まりが好きだった。
今回、少し前に誕生日を迎えた私と、来週誕生日の女の子の4月生まれ組の分の代金を奢ってくれるらしい。
集まった月の誕生日の人に全員で奢るという制度は、昔からのものだったので、私は有り難く奢ってもらった。


当時、私を慕ってくれていた後輩と付き合っていた盛り上げ役の男の子がマイクを握って流行りのポップスを歌っている。
たまに音が外れて顔が赤くなるたびに、笑い声が上がる。


私はそれを見て楽しんでいた。
昔から、傍観者の立場だ。


「朋香ちゃんは歌わないの?」

隣に座って聞いてきたのは、大学時代はそんなに話すことがなかった娘。
好きだとも嫌いだとも思ったことがなく、ただジャンルが合わない気がしていた。

「見ているだけで楽しい。十分だよ」
答えると、彼女の柔らかそうな丸い頬が上がった。

彼女は昨年の春に結婚した。せっかく勤めた中堅の商社も、2年働いただけで寿退社してしまったらしい。

そんな彼女の亭主は洋食屋の経営者。同じサークルだった友達が結婚式に出席したらしく、写真を見せてもらったが、これといった特徴もない顔をしていた。

洋食屋で彼女も手伝いをしているらしく、久しぶりに近くで見た彼女は少しだけふっくらしたような気がした。
幸せ太り、だろう。


「ねぇ」

「どうしたの?」

「結婚生活、幸せ?」

感情のない声がすらりと出てきた。
幸せに決まっている。
幸せだと言うに決まっている。

「すごく幸せだよ」

ほら。震える手で持ち上げたビールグラスしか見ていなくても、彼女の頬がまた上がったのがわかる。


「それに今、妊娠3ヵ月なんだ」
照れたように笑ってお腹を見つめている彼女。

私の欲しかったものを彼女は今全て手に入れていた…
私がもう、取り戻せないものを…


触ってくれない?と言い、彼女がお腹の辺りのワンピースの生地を手で伸ばす。

断るわけにもいかず、私はそっと手を伸ばした。まだ大きな膨らみも確認できなかった。


「遅くなったけど、結婚おめでとう。元気な赤ちゃん産んでね」

少しだけ泣きそうになったのは、彼女の左手の薬指にはめられていた指輪を見たからだ。

私が彼にもらった大きなダイヤのついたものよりも、ずっとずっと小さいダイヤ。


でも彼女の小さいダイヤの指輪は、私がもらったものよりも何倍も何倍も輝いて見えた――