ロールキャベツ


短い昼休みに休憩室で昼食を摂っていると、コンビニの袋を持ってこちらに歩いてきたのは森崎さん。

私の机を挟んだ向かい側にある椅子にあくびをしながら腰を下ろした。

頭を掻いて、蝶ネクタイを気だるそうに緩める姿を見ると、お客様に対応しているときの真摯な表情や滑らかな仕草はどこへ消えたのかといつも思ってしまう。


「吉良、トマト食べられる?」

サンドイッチのパッケージのビニールを小さく破りながら唐突に聞かれた。

食べれますけど、と答えると、私のお弁当の蓋にトマトが入ったサンドイッチが置かれた。

「どうもトマトは苦手でさ」

子供か、という言葉が喉まで出てきていたけれど、我慢した。

トマトが苦手なら、入っていないものを選ぶという選択はなかったのだろうか…

そんな風に思いながらも、私はお弁当箱を空にしたあとにサンドイッチを手に取った。


「最近良いことでもあった?」

これまた唐突に質問をしてくる。

「そんな風に見えますか?」

「うん。何、例の年上彼氏にプロポーズでもされたの?」

痛い所を突いてくるんだな。
治りかけのかさぶたを少し剥がされたような気分だった。

何も知らないんだから、仕方ないけれど…

私がプロポーズされたことあさみと、絋にしか伝えていなかった。

森崎さんはいいとして、職場の人たちに報告していなくて本当に良かったと思う。

もし報告していたら、きっと同情や哀れみの目で見られたはずだ。働きにくかっただろうし、ひどく居心地が悪かったことだろう。

婚約破棄されたあとでも、誰も知らないという事実がいつも通りに働けるように支えてくれていたのだと思う。

だけど森崎さんは一応尊敬している先輩だし、意外に口も固いから、別れたということだけでも言っておこうと思った。

プライベートのことも話すような間柄だし、これからも恋愛のことで色々と口出しされることに違いない。

嘘をつき続けたり、愛想笑いをフル活用できるほど器用な性格ではない。

いちいち傷つくのも嫌だった。



「私、別れたんです」

お弁当箱を袋に入れながら口を開いた。言い終わったあとで、何だか投げやりになってしまったな。と思った。

「え、そうなの?」

一瞬固まったけど、それほど驚くようなことでもなかったらしい。

あっさりと受け入れてくれた森崎さんの反応に助けられた。
ショックを受けられたり、言葉を失われたりしたらそれこそ愛想笑いも出てこない。


だからといって、

いつ別れたの?
どっちが振ったんだよ?
結婚前提じゃなかったの?

遠慮もなしに質問を繰り返すのはどうなのだろう。