「いや~ほんと助かるよ、吉良さん」

思いっきり棒読みの、レストランマネージャーのおじさん。

名前は、知らない。
別に知る気もない。

「年末年始に皆入りたがらないだろう?
実家に帰るだとかなんとかで。
だからあなたみたいな人は、珍しいけど、本当にありがたいんだよ~」

「はぁ…」

「僕も暇だからねぇ~、ずっと入るつもりなんだ。一緒に頑張ろう」

握手を求められそうだったから、軽くお辞儀をしてその場を去った。

言っときますけど。

去年離婚して、そのストレスでハゲてきてるの皆知ってますよ。

あと、おひとりさま同士みたいな言い方やめてください。
私には大事な恋人も、大事な親友もいますから。



あなたみたいに寂しくて、年末年始に勤務してるわけじゃありませんから。



私はただひとりで家にいるのもつまらないから、働いてるだけ。

ホテルの仕事はやりがいがあるし、皆が働かないときに働いておけば、その分お金にも変わっていく。

ただやっぱり、とんでもなく忙しいけれど。

人数が少ないぶん、エントランスフロアにも、レストランフロアにも、部屋の点検までも行わなければならない。

入社一年目にやっていた、レストランのウェイターも久しぶりにやった。

ワインを取りに行ったとき、マネージャーのおじさんと目があって、

やっぱりいつものエントランスフロアでの仕事をしていたいと心から思った。



「お疲れさまです」
清掃のおばさんがひどく疲れているように見えたから、缶コーヒーをふたつ買った。

渡してあげると、とても嬉しそうに笑ってくれた。


あぁ、やっぱり私は、
人になにかしてあげることが好き。

おばさんと一緒にコーヒーを飲んでから、仮眠室についているシャワールームに入った。


少し、仮眠しよう。

化粧水を塗ったあと、iPhoneを触っていると、
見慣れた名前からメッセージが来ていた。


『仕事お疲れ!
甥っ子と昼寝して眠くならないから電話待ってるねー』


…寒いけど。

さすがに仮眠室で電話するわけにはいかないから、私は外に出ることにした。