「へぇ、じゃあ美容師をしているんだ」
青年は東京の美容室で働いているらしい。
どうりで服装やら、髪型が今どきなわけだ。
「はい。最近やっとハサミ持たせてもらえるようになったんですけど」
「立派じゃないか」
美容師は、長い間アシスタントをやらされるって聞いたことがある。
ハサミを持つのに、修業期間が8年くらいはいる、なんてことも。
「今日は定休日か何か?」
美容師なら忙しいだろうに、なぜ埼玉にいるんだろう、そう思って聞いてみた。
「いえ。自分ここの隣の市が地元なんです。
姉が子供を産んだので、特別に休みをもらって帰ってきたんです」
「そうなんだ。めでたいね、おめでとう」
「ありがとうございます」
チラリと彼の荷物に目を向ける。
この家具屋の紙袋の中にいる、手触りのよさそうな犬のぬいぐるみと目が合った。
そうか、お姉さんの子供のものを今日は買いにきているのか。
「生まれたての赤ちゃんは、さぞかし可愛かっただろうね」
「はい、すごく。もう、自分の子供かと思うくらい夢中になっちゃって」
「本当の子供が生まれたとき、大変なんじゃないかな?」
「はい。仕事行けないと思います」
青年との話は弾む。
初めて会ったのに昔から知っていたように話せるのは、なぜだろう。
「今日もプレゼントを買いに来たんですけど、あれこれ買っちゃって。叔父馬鹿になりそうです」
「分かるよ。僕も…」
言いかけて、止めた。
首を傾げた青年が僕に聞く。
「僕も?」
「いや…僕も、そんな風になったことがあるよ」
掘り下げたくないはずの話を、不思議と自分から広げてしまっている。
「お子さんですか?」
「ああ。娘がひとりいるんだ。今年26になる」
「そうなんですか。娘さんと同い年です、俺」
また屈託のない笑顔を見せてくれる青年。
もし娘ではなく息子が生まれていたとしたら、
こんな風に仲良く話をすることが出来ていたのだろうか。
「やっぱり娘さんが生まれたとき、嬉しかったですか?」
「…そうだね。とんでもなく、嬉しかった。
人生で一番と言ってもいいかもしれない」
「いいお父さんなんですね」
青年はやはり、同じ笑顔でこちらを見ていて。
僕は曖昧な返事を返すのが精いっぱいだった。

