「もう一軒いこ~よ~」
酔い始めたあさみは、スペイン料理屋を出てからそう言う。
「俺パス。明日朝早いし」
「私も。あさみだって、明日からまた仕事でしょ?」
「もー。現実逃避してたのに~」
そう言いながらも、仕事の話をするあさみはいつもキラキラしてるんだけどね。
「じゃあ、酔い覚ましに歩いて帰ろっか!」
「えー」
「いいでしょ、運動運動」
その高いヒールで、足痛めるのがオチでしょ。
「絋の家、ここから近いの?」
「そんなには遠くないよ」
絋の家を詳しく聞くと、私ともあさみともそんなに遠くないことが分かった。
じゃあまた集まれるね、なんて話をして。
でもこの3人だったら、本当に集まる気がする。すごく久しぶりに再会した絋なのに、もう既に心を許せているんだもん。
天真爛漫なあさみに、ノリのいい絋、それに私。
真面目な話も、馬鹿みたいな話もきっと出来る。
これからまた本当の友達が増える気がして、嬉しかった。
「もうすぐバレンタインかぁ~」
あさみは、若い子向けのファッションビルの前でのバレンタインのフェアを見て言った。
2月に入ったら、そりゃあ宣伝しだすよね。
去年は、あさみと一緒にブラウニーを作った。って言っても、95パーセントくらい私がやったんだけど。
「和泉はもらう相手いんの~?」
「いねぇよ。でも、お客さんとかくれたりする」
「へぇ~どれくらい?」
「毎年20個ぐらいかな」
結構もらってるじゃん。
何気に人気美容師だったり?
「また朋香につくってもらお~」
「却下。そろそろ料理しなさい」
おもしろがって厳しく言ったら、泣き真似までしだすあさみ。
こりゃ、完全に出来上がってるな。
「下手でもいーじゃん。手作りがやっぱり嬉しいよ?」
「じゃあ頑張ろっかなぁ」
すぐ立ち直るとこ、森崎さんにそっくりだよ。
「朋香はあげる相手いんの?」
「そりゃあね~!だって朋香…結婚するんだもん!」
「まじで!めでたいな~」
「でしょ~?あ、和泉、余興やんなさいよ」
「俺が?あさみちゃんだろ」
楽しそうに笑う二人の後ろで、私はぴたりと立ち止まった。
そうじゃん、私、結婚するんだった。
あれ…なんで?おかしい。
一緒に私の地元に行った日から、
もう2週間も
彼と連絡とってない。

