駅前の少し入り込んだ路地の中に、美容室はあった。
路地っていっても野良猫とかが出そうなのじゃなくて、隠れ家的な感じ。
スタスタと早足で私の前を歩くあさみが立ち止まったのは、アンティークっぽい、まるでヨーロッパの洋館みたいな見た目のお店だった。
造花とツルがいい感じに飾られてて、凄くお洒落。
なんだか、美術館にでも来たみたい。
ドアを開けるあさみに続いて、中に入った。
「いらっしゃいませ」
低い腰で頭を下げた男性…絋だ。
「こんにちは。朋香連れてきたよ」
あさみの言葉で私の顔をチラッと見てくる。
久しぶりに会った絋は、すっかり大人の顔をしていた。
「こちらにお掛けになってお待ちください」
いくつか並んでいる椅子に案内される。
私たちが座ってから、荷物を持ってロッカーに向かう絋を見て、あさみが言った。
「和泉、静かだよね」
…確かに。
仕事だもんね。
ギャーギャー騒げないに決まってるよね。
「この間は喋ったの?」
「うん。でもすぐに担当変わったからさ~」
「そっか」
今日の私の担当はどんな人なんだろう。
あまり切る気もないから、別に下手な人でもいいかも。
あさみはカラーを変えるらしく、色のイメージを決めるとかで私よりも先に席を立った。
「どうぞ」
パラパラと適当に雑誌を見ていると、カップをテーブルに置いた絋。
「ハーブティー、飲める?」
「大丈夫。ありがと」
カップの中のハーブティーはとてもいい香りがして、なんだか落ち着く。
「今日、ずっと休みなの?」
「そうだよ」
「俺、18時に上がるから3人で飯どう?」
そう言って、名刺を差し出された。
連絡しろってことね。
「いいよ。カラオケでもいく?」
「いいじゃん」
ニッと笑うその顔は、変わってないね。
「ではもう少し、お待ちください」
ペコッとお辞儀をするなんて、昔の絋じゃ考えられない。
絋も大人になったんだ。
なんだか少し、寂しくなった。

