12時からで予約をしておいた、行きつけのネイルサロン。
ネイルといっても、仕事柄派手なものはできないけどね。
でもやっぱり、フロントで働いていると、お客様と接する機会が何処よりも多いから、身だしなみには人一倍気を遣ってる。
だからこうして休みの日に、重い腰を上げて街に出向いているってワケだ。
「春をテーマにしたデザインが出ましたので、そちらのほうはどうでしょう?」
ネイリストがたくさんのチップが並んだボードを向けてくる。
まだ2月に入ったばかりだっていうのに、もう春か…
本当、先取りが好きだよね。
あさみの話なんか聞いてると、真夏の暑い時期にコートやらニット、真冬の寒い時期にサンダルとか…
そんな先の話をしてどうする気?って思うけど。
まぁ、そんなあさみの先取り知識のおかげで、私はホテルでお洒落さんとして通っているんだけどね。
だからこそ、やっぱりここは、春を先取りしなくちゃ。
「これでお願いします」
私が指差したのは、うっすらと桜がプリントされたベビーピンクのネイルチップ。
いつも新しいネイルに変えるときは、ワクワクする。
こういうところは、まだまだ乙女なのかも。
「あさみ!遅くなってごめん」
ネイルサロン、ちょっと長引いちゃった。
待ち合わせ場所で腕を組み、仁王立ちをしたあさみに謝る。
サングラスをかけて、表情は見えないけど。
こういうときのあさみって、大体笑うのを我慢してるんだよね。
「おりゃ~」
お腹をこちょこちょしたら、子供みたいに騒ぎまくる。
大きい口を開けて笑って、サングラスとまるでマッチしてない。
本当、私たちずっとこんなことばっかりしてるよね。
「もーやめてよ、恥ずかしいじゃん」
「朋香がこちょこちょしてくるからでしょ~」
「ていうか、こんなことで笑えるってしょうもないね」
「すっごい馬鹿みたい」
あさみがまた笑い出すから、私まで笑えてきた。
「さ、早く行こ?」
あさみに腕を引かれて、歩き出す。
今日は絋の働いている美容室に行く日だった。

