だらしなく私の家のソファーに寝転がっていたあさみが、素早く起き上がった。
「ど、どういう意味?!」
きちんとハテナとビックリマークをつけて、思い通りのリアクションで。
「そのままの意味」
「そのままって…」
そこで一旦、ビールを口にするのがあさみらしい。
「だって、挨拶しにいったんでしょ?」
「行ったよ?パン屋の前までは」
「パン屋ってあの?!懐かしい」
「それでさ、あのおばちゃん覚えてる?」
「覚えてる覚えてる!」
「すっかり老けてた、でも元気そうでね」
「へぇ、また行きたいなあ…
…じゃなくて」
あーあ。せっかくうまいこと話逸らせたと思ったのにさ。
「今うまくいってたのにって思ったでしょ」
あさみには、敵わないや。
「それで?結局、引き返したの?」
「引き返したっていうか…うん、引き返したのかな」
曖昧な私の答えに、あさみが首をかしげる。
「過呼吸に、なった、みたいで…」
あさみの口が、ぽかーんと開いて。
それはそれは、マヌケな顔。
「朋香、本当に会いたくなかったんだね」
感心するみたいに何回も頷きながら言うあさみ。
会話の内容からして、全然感心するところじゃないけどね…
「それで、仕方なく帰ったってわけ?」
「多分。私気も失ったみたいで。
気づいたらここで、彼が隣にいた」
またさっきのように口を開けるあさみ。
その顔、結構笑えるよ?
「気失うって…そこまで…」
まあ、驚くよね。
それほど嫌なのがメンタルまで影響来てたってことだもん。
私の体は、私の心をよくわかってる。
おかげで私は、あの人に会わなくて済んだんだから。
お礼を言いたいくらいだよ。
「じゃ、また次回に持ち越しだね」
あさみの言葉に、寒気がしたのは言うまでもない。

