「ふ、ふんっ、わ、悪かったな。」
10分くらいして、情輝様はスッと僕から離れてそう言った。
「い、いえっ…」
僕はあまりの変貌に少し慌てながら言った。でも、情輝様がくいっと袖で涙を拭うのを見て、心を痛める。

「夜、とくに満月は変な事が起こりやすい。気をつけて帰れ。」
情輝様はそう言って僕が来た方向と逆の方向に歩き出した。
「あの、灯りっ!」
「平気。…ありがと。」
パチンッと情輝様が指をならすと、ぽぉっとひとつの灯りがついた。あの洋燈と同じ、淡くて暖かみのあるオレンジ色…。

僕もマッチ箱からマッチを取り出して、シュッと灯りをつける。そして蝋燭に移す。そしてそのまま歩き出した。

新しい、誇りと埃のある部屋へ…