「春さん、指名です。お願いします。」

黒服が耳元で伝えてきた。


えっ?
私今日は近藤さん以外予定なかったんだけどなぁ。
誰だろ?

「近藤さん、ちょっと呼ばれたので失礼しますね。待ってて下さいね。」

「春ちゃん呼ばれちゃったの?妬けちゃうなぁ。でも、仕方ないよね。お店だし」

悲しそうな近藤さんの顔を見ると私まで悲しくなっちゃう。

「近藤さん、ごめんなさい。また後で帰って来ますから」

そう伝えてせきを立った。


黒服に席を案内される。

「失礼します」

そう言ってお客様へ目線をむけると

「春、遅い」

「和哉さん」


さっき来店されたのが和哉さんだったんだ。
でも指名って言われたような?

「ごめんなさい。そんなに待たせてしまいましたか?」

「.....別に」

「「...............」」

機嫌悪い?
私なにかしたかな?
困った。
どうしよう。
そう思うとさっき近藤さんに頂いたネックレスを握りしめていた。


「.....春、それ.....」


それ?
和哉さんの目線を追うと
私の握りしめたネックレスだった。

「あ、あの、さっき頂いたんです。出張のお土産ですって。可愛いですよね。私金属アレルギーなんでプラチナ以外着けられないんです。だから基本アクセサリーには無縁だったんですよ。」

さっきの近藤さんとの出来事を思いだしていた。
それだけで心が暖かくなる。


「.....ムカツク」

えっ?
今ムカツクって言わなかった?

「か、和哉さん、あの.....」

「俺の前で他の男の事を考えるな」


.....そぉだよね。
今座ってる席以外のお客様の事考えるなんて失礼だよね。

「ご、ごめんなさい」


「「...............」」

気まずい。
でも私が悪いんだよね。
話しかけなくちゃ。

「あの、和哉さん.....」

話しかけようとしたとき

「春さん。お客様お帰りです。お見送りお願いします。」

「はい」

近藤さん帰るんだ。
出張から帰ってきたばっかりだし、疲れてるんだよね。

「和哉さん、少し待ってて頂けますか?お客様お見送りしてきますね。」

「.........」

はぁ〜。
やっぱり機嫌悪い。
仕方ないお見送りしてから謝ろう。

席を立った瞬間。
グイッ。
あれ?
腕を誰かに引っ張られた。
引っ張られた方向へ振り向くと

「か、和哉さん.....?」

腕を掴んでいる和哉さんの姿。
元々無表情だから顔色はうかがえない。

「どうしたんですか?」

「......早く戻ってこい」

えっ?
早く戻れって言った?
怒ってないの?
......なんか嬉しい!!
自然と笑顔になっちゃう!!

「はい!すぐ戻って来るので待ってて下さいね?」

「.....あぁ」

あれ?
今顔が赤かったような?
気のせいかな?
とりあえず近藤さんお見送りに行かなくちゃ。