紅里はあの日、記憶をなくしてしまった。
記憶をなくしてから、紅里はほとんど表情を変えなくなった。

紅里は、何も知らない。

記憶をなくす前の自分も、
ユキノ先輩がどんな人だったのかも、
私がどんなことをしたのかも、

紅里は、何も知らないんだ。

「紅里、帰ろっか。」

私は紅里の返事も待たずに、屋上を後にした。



家に帰ると、お母さんがご飯の支度をして私の帰りを待っていた。

「あれ、今日ってお母さんがご飯作る日だっけ?」