アパートを出て、裏の土手に登って行く。
夜風が涼しい。
先に歩く、龍一の手を握って付いて行く。

『美紅…、今日、怒られるんじゃないか?』

思い出させないでよ。自分でも分かってる。
親には、涼子の家に行くって、嘘をついた。

「大丈夫だよ。なんとかなるよ。」

『お前さあ、学校でも友達少ないし、親とも、こじれたままだし…。これから先、大丈夫か?』

突然、何言ってんだろう…。

「どうしたの?心配してくれてるの?」

笑いながら、龍一の顔を見ると、意外に真剣な顔してる。

『夏休みも、もうすぐ終わるし、来年は受験だろ?』

親みたいなこと言ってる。

「塾にも行ってるし、友達少ないけど、龍一がいてくれるから、それだけでいいの。
…あ、花火!」

大きな音が、お腹に響く。
幻想的な世界が広がる。
すごく、綺麗。
さっきの話なんか忘れて、2人で土手に座って、花火にみとれる。

龍一の肩に、もたれて甘えてみる。

「ねぇ…。なんで、あんなこと聞いたの?」

『なんとなく…。』


どうしたんだろう?
花火の明るさに照らされる、龍一の表情が、寂しそう…。
私のこと好きだよね?
私と、一緒にいたいって、思ってくれてるよね?
龍一?

龍一の腕に、強く抱き付く。

『痛いよっ。』

「あ、ごめん。」


だって、不安にさせる顔するから…。


『綺麗だな。』

「そうだね…。」


夏の夜の、1時間だけの素敵な空間。
帰る時間が、近付いてきてる。
ほんとは泊まりたいけど…。
帰らなきゃ…。
もう少し、もう少しだけ、一緒にいたい。
綺麗な花火に感動したのか、龍一と過ごす時間が、終わる寂しさからなのか、泣きそうになる。


楽しい時間は、あっという間に終わった。