「もう大丈夫だから・・ 自分で上がってきなさい。そこに、手すりがあるでしょ」

見知らぬ男の人の声がした。
振り向くと飛び込み台から10メートルほど進んだ所に居ることがわかり、
慌てて手すりへと歩きながら進んだ。

「外を見てごらん、出口があるでしょ」
男の声は冷たかったが、 自分を助けようとしてくれているのが
なんとなく皐月にもわかっていたので、言う通りにした。

外は一面、青々とした草むらに淡いピンクの桃色白詰草
が群集していた。
「なんて・・なんて気持ちの良い所なんだろう・・
なんか・・保健室みたい。美智子先生の居る保健室みたい」

ふと、さっき出てきた出口を見てみた。

水中にいた二人が、 そこに居た。
もう、そこにはあの、恐ろしい女はいない、
可愛らしい長い髪を柔らかな風に流されながら
気持ち良さそうに佇んでいる、皐月と同年代の女の子が居た。

「私・・・間違ってた。」

彼女が 男の子の方を振り向いて言う。

「風間君のこと・・・前から好きだったから・・・」

「もういいんだよ。」

「二人で 産まれ変わろうよ、」

「私は・・・もう少しかかるけど・・・・」
「きっと又会えるよね!風間くん」

「うん。 きっとね。」

皐月は心の中で思った
(この光に照らされて、 余計な邪心が取り払われたんだな・・・
一言私に謝ってくれてもいいじゃないって・・・思うけど・・・
なんか、邪魔できない雰囲気だな・・)

「振り向かれても怖いでしょ」
又、冷たい口調の男性の声がした。