失いたくないから愛せない


「おい、待てよ!…あー恵!」


「何よ?」

恵が呆れた顔をして振り向いた。



「見舞い、ありがとな。あの後また来てくれたんだろ?」



恵はフっと笑った。



「バカね。あたしは、あの日以来行ってないよ」



それだけ言うと、恵は再び歩き出した。





しばらく茫然として、下駄箱から動けなかった。