失いたくないから愛せない


更衣室に行く前に、安藤くんは水道の蛇口で水を飲んでいた。


「はい」


私がタオルを差し出すと、安藤くんはまたにっこりと笑った。


「ありがと」


始めて、タオルを受け取ってくれたことにすごく嬉しかった。


安藤くんは口を拭いたタオルをじっと見ている。


「どうしたの?あ、もしかして臭かった?え?洗濯してたはずだけど?」

私が慌てると、安藤くんはフっと笑った。


「違うよ。俺、ずっと川瀬さんのこと拒んでいたから…俺、間違っていたなって思って」

「え?」

「いつも、ありがとう。全部、川瀬さんのおかげだよ」


安藤くんが真っ直ぐな目で見つめる。