優しい温もりで目が覚めた。


朝の日差しの差し込む温かい空間。


この部屋独特の匂いが私を包んでいる。


少しほこりっぽいくて、絵の具の匂いが染み付いたこの教室が大好きだった。




……あのまま寝ちゃったんだ。




重い体をゆっくり起こすと、一度だけ大きく伸びをした。


机の上のものを片付けると、扉の方へ向かった。


手ぶらの自分になんだか笑えてくる。


持って行くものなんて何もないから。






……いや、違う。


持って行くのが怖いんだ。


だってこんなに思い出の詰まったものを持って行ったら、私……

 


「……っ!」




両手で頬を叩いた。


こんなこと……考えるな!!





扉の前に立つと、教室の端から端までじっくりと見渡した。


大好きなこの空間を目に焼き付けるために。


そして一度だけ深く、頭を下げた。