雨の匂いが流れ込んできたかと思うと、その中に彼の優しい香りを見つけた。
ピシャっと音を立ててビニールの傘を閉じた、その人の綺麗な手に釘付けになる。
入り口の傘立てにそれを突っ込むと、彼はゆっくりとした足取りでカウンターの前まで足を進めた。
「……いらっしゃいませ。」
「……こんにちわ。」
カウンターの一席に腰を下ろすと、その人はふぅーっと小さく息を吐いた。
「……コーヒーください。」
相変わらずフードで分からない表情。
「……はい。」
短く返事だけすると、私は奥のキッチンに逃げ込んだ。
カップにコーヒーを注ぎ、ミルクの蓋をあける。
他のお客様に出すのより少し少なめ。
あの人はこれが一番好きだから。
少しずつ見つけてきた、あなたの好きなもの。
よくする癖。
私が見てきた“あなた”は本当にあなた?
……ねぇ、教えて?
あなたは……誰なの?


