その瞬間、彼からふわっと香った香りに体が固まったように動かない。





「みかんの……かお……り。」





違うよ、そんな訳ない。


だってあの人は眼鏡なんてかけてないし……。





「ん?どした、心菜?」


「なん……でもない。今日は帰る。」


「は?ちょ……!」






あの人に会える日を楽しみにして髪の毛巻いてみたり、ちょっと背伸びしたグロス塗ってみたり。




フードから覗く形の綺麗な唇が「かわいいよ。」って言ってくれるのを夢見て……。





だからそんなはずないの。


だって、もしそうだったとしたら私……





和真くんのこと……。