お昼になって、解散の号令がかかった。
男子4人はみんな部活があるらしい。
じゃあねと別れて教室を出た。
途中でマスクを汚してしまったことを思い出し、保健室に寄ることにした。
扉を開けようと伸ばした腕が、突然誰かに掴まれる。
「!?」
びっくりして振り向くと、エナメルバッグをしょった大地が息を切らして立っていた。
「走ってきたの?」
「お前どうしたんソレ」
「へ?」
「鼻。折ったん?」
さっきはみんなと笑ってたくせに、何を聞きたいんだかすぐには分からなかった。
「え…あ、あぁコレ?うん、転んで折れたみたい。あはは」
「笑うなよ。どうしたんほんまに。」
笑ってみたけれど、怒られた。
「嫌だなもう。転んだの。家の階段で。大丈夫だよ大袈裟だなぁ。」
階段と聞いて納得したのか、そうかと小さな呟きが聞こえた。
「お前あんま心配させんなよ。もっとしっかりせぇアホ」
心配してくれてたのか、なんて今更思っておかしくなった。
「ごめんね。部活頑張って。」
「ん。お前も気をつけて帰れよ。」
周りを見回してからチュッと短いキスをして、校庭へ走って行った。
その背中が見えなくなるまで目で追って、やっと保健室の扉をノックした。
「失礼し……ひっ!」
「お前ずいぶん校内で大胆にイチャコラしてるな。」
扉を開けたら入り口に先生が立っていて、びっくりしすぎて少し飛び上がった。
「んな…なんなの…立ち聞きは悪趣味ですよ…」
「よみってあんな男が好きなのか?お前こそ悪趣味だろ。」
フンと鼻を鳴らして椅子に座ると、で?と顔を上げた。
「で?その鼻は?」
「聞いてたんでしょ。階段から落ちました」
「じーさんか?」
「……えっと…」
「お前俺にまで嘘つこうとしてんの?今朝も風邪っつってたの嘘だったろ。俺に隠し事が通用すると思うなよ。」
ちょっと迷ってから、小さな声で返した。
「……じいちゃん酔ってたから。」
正直に言ったのに、はぁ、と大きなため息が聞こえた。
「辛かったな。」
「へ?」
怒られると思っていたら急に顔が優しくなった。
「お前彼氏にまで嘘つかなきゃいけないし、どうせ友達にも相談したりしねーんだろ。」
相談するような友達すらいないんだけど、それは黙っておくことにする。
「そんな相談もできない彼氏なんか別れろよ。」
そんなこと言われても。
「あいつに知られるのが怖い?引かれるのが怖い?」
「怖いよ。だって彼は普通の家の子だから。きっと知ったらショックだろうし。」
「だったら別れちまえ。」
「なんでそうなるの?」
「そんなんで引くような男は器がちっちぇえ。」
「引かない人の方が希少だと思うよ。」
「俺は引かなかったけど。」
「だって先生は先生だから。生徒のことで偏見もっちゃいけないから。」
「馬鹿かお前は。」
デコピンが飛んできて、派手な音が鳴った。地味に痛い。
「お前はまだまだお子ちゃまだねぇ。ったく。」
ブツブツ言いながら、最後に新しいマスクをくれた。
