「………。」


もう一度目をこすってみる。


兄とはこの家に引き取られてから1度も会っていなかった。



明らかに身長が伸びているし、少し痩せた気はする。



でもやっぱり、間違いなく私の兄だ。



何も言わない私に彼は小さく笑った。


「よみ、久しぶりだな。もっとびっくりしてくれるかと思ってたのに。」


二カッと笑った口元から見える八重歯が妙に懐かしかった。




「礼央くん……。」


正直言って、なぜ来たのかが分からない。高校生の夏休みはそんなに暇なのだろうか。



「よみ、ちょっと2人で話したいんだけど。今から出れる?」


今から?2人で?何を話すのだろう。




2人に共通の話題があるとすれば、実家の話しかないだろう。



昔から、私にとても優しい兄だった。



私にだけじゃない。みんなに優しい人だった。だからきっと母は兄を好きになり、私を嫌いになった。





よく母親がいない時にこっそりテレビゲームを教えてくれた。


コントローラを握ったことすらない私が初めてやるゲームで絶対に負けなかったのは、兄がそういう人だったからだ。




兄と遊ぶのは、いつも母親がいない時だけだった。



兄と私は立場が違う。それなのに一緒に遊んでいたなんて知られたら、きっと殴られる。



私が母親に殴られたって兄は止めないけれど。

気づけばその場からいなくなっている。





馬鹿な私なんかに唯一優しくしてくれる人、というのが兄への認識だった。




もちろん、家族のことについて話したことなんてない。



兄は家の中で格上で、私は犬以下だったのだから。