続く嫌がらせは止まなかったけれど、柊がいればそんなのどうでもよく思えた。




犯人が誰なのか、理由はなんなのか、そんなことも突き止めること自体が面倒で。


いつか飽きるだろうと思っていた。






そんな時、たまたまだった。


放課後足りない掃除用具を職員室に取りに行って、いつもより帰りが遅くなった。



もう誰もいないだろうと思い覗いた教室の中に、まだ人がいた。

しかも、私の机に座って何かしている。




「……何してんの?」


「うわっ!」


気配に気づかなかったのか、椅子から飛び上がってこっちを見ているその人は、


菜々子だった。




「何してんの?」


無表情で近づく。

机の上には私の鞄の中身が散乱していて、空になって放られた鞄には足跡がいくつもついている。




「……何してんのって。聞こえてる?」


顔を覗きこむと、菜々子が泣いていた。


「な、菜々子は!鞄が散らかってたから!片付けてあげようと思って!」


「部活中の時間にわざわざ?」

「…っ!」


観念したのか、泣き顔が睨みをきかせた恐ろしい表情に変わった。



「あんたが悪いんじゃん!なに柊君とイチャついてんだよ!お前遊ばれてるだけだって気づけよ!」


「は?」


「席までずっと隣でさ!なにしたの?クジになんか加えた?そこまでして柊君の彼女になりたいの?!」



「………?」



いきなりブチ切れたツインテールを見ながら頭を整理した。


つまり、つまりそういうこと?



「…あんた、柊が好きなの?」


率直に聞いたのに、彼女は再び泣き出した。


「お前さえいなきゃ!柊君は菜々子のこと見てくれるもん!バレンタインもチョコもらってくれたし!なのに!邪魔するから!」


しゃくりあげながらまくし立てる様は奇妙で、正直哀れだ。


「柊君に近づかないでよ!お前なんて都合のいい女にしか見られてないんだよ!」


そんなこと言われても。


もう遅いよ菜々子ちゃん。

もう、恋人になっちゃったよ。



「それはできない。」


きっぱり言い切ると、彼女は顔を上げた。


「できないけど。席替えで不正なんてしてないし、あんたが思ってるほど必死で柊を奪った覚えもない。柊が好きなのは仕方ない。だってそんなのあんたの勝手。でもね、あんたは汚い。体操服も上履きも教科書も。誰がやったか分からないようにして。好きなら正々堂々やんなよ。汚いやり方で奪っても、結局汚い恋で終わるでしょ。」



思ったより冷静だった。

怒り狂う人間を目の前にしているからか、もう嫌がらせにも慣れていたからか。



菜々子は私を睨みつけたあと、


「絶対に許さない。」


そう言い残して教室を飛び出して行った。


散乱したペンやノートをかき集めながら、複雑な気分だった。


そういえば、柊はモテるのか。


確かに顔はいい。加えて野球部のエース。


あんなコアなファンがいてもおかしくないのかもしれない。