「お前、俺のこと好きになれよ。」


低い呟きが、告白なのかどうか判断できない。


「な?俺のことだけ見とけよ。他の奴なんてもうどうでもいいやん。」



呟かれる声がゆっくりと心に染み込んで行く。


「教科書も俺の一緒に見ようや。昼休みは一緒にウサギ見に来てやるし、上履きも俺の片方貸してやる。やから。な?……俺だけ見とけ。」


上履きはさすがにいらないと思ったけれど、私は頷いた。


なんだか悲しくて、泣きそうで、でも温かくて。




初めての感情に、胸の奥が熱くなるのを感じた。




顔を上げると思ったより近くで視線が重なって、すぐに下を向いた。


「なんで逸らすん。」

「や、なんか…恥ずかしい……」


よしよしと頭を撫でられて、再び顔を上げた。



瞬間に、唇に何かが触れた。


驚いて目を見張ると、長いまつ毛を伏せた瞳が目の前にあった。


「目、閉じてや。」


キスの合間にそう言って、再び唇を奪われた。


フニフニしていて、柔らかい。

何もかもが初めてすぎて、心臓が口から出ちゃいそうだ。



思わずそばにあった手をを握りしめると、指を絡めて握り返してくれた。




ウサギ小屋の前で、午後の始業のチャイムを聞きながら。


優しい悪魔にファーストキスを奪われた。