あれから3日が経った。


殆どの教科書にマジックの落書きが施されていて、そのたびに柊は自分の教科書を私にくれた。



「引かないの?」


思い切って聞いて見た。


「引くって何を?」


「あたし多分、誰かに恨まれてるよ。」


「うん、せやな。……こういうことやっとる奴にドン引きしとるよ。」



いつもみたいにからかわれた方がマシだったかもしれない。


こんな時だけ真剣な顔をするコイツは

やっぱり酷い男だと思う。





とはいえ、クラスの中に思い当たる人物はいなかった。シカトされることもなく、誰かに睨まれているような視線も感じない。




何も解決策が浮かばない中、さやかの友だちと仲良くなる機会が訪れた。


昼休み、2人で中庭の芝生に寝そべっていた時、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。


「さやかー!今日部活自主練らしーよー!」

ツインテールをぴょこぴょこ揺らして駆けてきたのは、背の小さい女の子だった。


「あー菜々子!ありがとう。」

2人で何やら話しこんだ後、菜々子と呼ばれた女子がこっちを向いた。


「藤沢さんだよね?話してみたかったんだー!」

「どーも。」

体を起こすとさやかが紹介してくれた。


「4組の斎藤菜々子、バスケ部なんだ。よみは話すの初めてだよね?」

コクリと頷くと、菜々子がニコリと微笑んだ。


「藤沢さんって部活入ってないの?」

「うん。」

「へぇ!菜々子バスケ部にしか知り合いいないから、藤沢さんと友だちになりたい!」


社交性のない私にとってこういうオープンなタイプは苦手だ。


右手を差し出され、とりあえず握り返した。




それからほぼ毎日、菜々子は友だちを引き連れてうちのクラスに遊びにくるようになった。



私の筆箱を勝手に漁り、

「これ可愛い!もらっていい?」

なんて言う。




人の空間に土足で入り込んでくるこういうタイプに免疫のない私はなんとなく居心地が悪くて、いつも遠巻きにそれを見ていた。



次第に毎日休み時間のたびにさやかの周りに菜々子率いる大勢の女子が溜まるようになり、私は自分の席でボケっとすることが増えた。





さやかをとられた疎外感みたいなものは全くなかったが、やっぱりさやかは人気者だなと痛感したのは事実かもしれない。




机に突っ伏してウトウトしていると、急に頭を小突かれた。


「…った……」

柊がニヤニヤしながらこっちを見ている。



「なに…人が気持ちよく寝てるのに…」


「お前最近ずっと一人やない?」

「はぁ?一人が好きなんだよ馬鹿。」

「………。」


ぷいっと横を向いて再び寝る準備に入った時、隣から声がした。



「藤沢さん!菜々子ね、新しいピン買ったんだけど、どう思う?!」


いつの間に来たのか、すぐそばに菜々子が立っていた。

派手なリボンのヘアピンが前髪に刺さっている。



「あー…可愛いね。」

とりあえずそう返すと、冷めた声が割って入ってきた。

「可愛い?ありえんわ。お前趣味おかしいやろ。」

「えー!柊クンひどーい!」

腕を揺する菜々子の手を柊はあっさりと振り払った。

「触んなよ。てかお前鬱陶しい。自分のクラス戻れよ。」


普段はあんなにふざけているクセに、何が気に食わなかったか怒りオーラを出し始めた。



菜々子は黙って唇を噛んだあと、走って教室を出て行ってしまった。



「そこまで言わなくても……」

「あいつ嫌いなんよな。そもそもあいつがお前の友だち奪ってるわけやろ?マジで性格わりーのが顔にも出とるわ。」


ふんっと鼻を鳴らす彼の考えていることは、私にはよくわからない。



「あたし、別に一人が嫌とか思ってないよ?」


とりあえずそう言ってみたけど、華麗にシカトを決められた。