玄関で、マスターは何も言わずに頭を撫でると再びすぐに出て行った。



玲子さんに促された私はとりあえず部屋へ上がる。



部屋の中には玲子さん以外、誰もいなかった。



太陽さんが1人で暮らすこの部屋は、大抵騒がしい。


喫茶を出たメンバーたちの夜の溜まり場になっていると言ってよかった。



なのに今日は誰もいない。



シンとした部屋には、脱ぎ散らかしたシャツやゲーム機が散らかったままになっている。




「あぁ、今はあたししかいないから安心しな。」



私の気持ちを察したのか、玲子さんが頷いた。



ひとまずホッとして、その場にへたりこむ。



「疲れてると思うけど、先に風呂入んな。もう湯船は溜めてある。」



玲子さんはちゃきちゃきと私を洗面所に放り込むと、出たら言えと扉を閉めた。


スウェットを脱いで洗濯機に放り込む。


浴室からは湯気が上がっていた。





熱いシャワーを頭から浴びて、体をゴシゴシこすった。


こすってもこすっても、汚いものがまとわりついて肌に侵食していくような感覚に私は焦っていた。


汚い汚い汚い。




玲子さんに声をかけられた時も、ただひたすらスポンジを肌にこすりつける作業に没頭していた。



「よみちゃん?溺れてんの?」


ノックの音がして、浴室の扉が開いた。


私を見るなり玲子さんはシャワーの中に入ってきた。


腕を掴んでスポンジを奪うと
服が濡れるのも構わずに、裸の私を抱きしめる。



「さわらないで…あたし、洗わないと…」



スポンジを取り返そうとした右腕を優しく包み込んだ玲子さんの指は、長くて細くて綺麗だった。


「大丈夫だよ。もう十分、洗ったろ?」



女性にしては低い、落ち着いた声が私の気持ちを沈めていく。




それから玲子さんは私を湯船に浸からせて、新しい下着とスウェットを用意してくれた。


ピンクの派手なスウェットは、恐らく玲子さんのものだろう。


私が着替えを済ませると、今度はドライヤーを持ってきた。


髪がすっかり乾く頃には、私もだいぶ落ち着いていた。