「離さねーっつってんだろ!」

初めて聞いたマスターの怒鳴り声に、私ははっと我に返った。




抵抗をやめると、腕を引っ張り立たせてくれる。



「マスタ…ごめんなさ…」

「いいんだ。俺も怒鳴って悪かった。」


いつもの声に戻ったマスターは、私の右手を握った。



「マスタ、お願い。…触らないで。」


マスターの手が腐ってしまう。

優しい綺麗な手が。汚れてしまう。




「……なんで?」

「だって…あたし汚いから。」

スルリと手をほどくと、苦しそうな顔をされた。



「ごめんなさい。もう逃げ出したりしません。…だから…手は繋がなくても大丈夫です…」


小さな声で謝ると、再び手を握られた。今度は力が強くて振りほどけない。



「大丈夫。汚くないし気にしない。ゲロ吐いたこと言ってんなら気にすんな。」



違う。違うのに。



それ以上何も言えなくて、大人しく手を引かれたまま車へ戻った。





無言のまま車が走り出す。



後部座席にうずくまって、このまま消えてしまいたいと願った。