しばらくぶりの光に目を瞬いて数秒。

ここが倉庫の外に停められた車の中だと分かった。




「よろしく。」


運転席に声をかけたのは副ヘッドのテルさんで、彼がここへ運んでくれたのだと理解する。



体はジャージがかけられているだけで、殆ど全裸だった。



扉が閉まり、車が動き出す。

「そこにスウェットがあるから。とりあえず着な。」


運転席で振り向いたのはマスターだった。



下着がないので直接黒のスウェットに袖を通す。

ダボダボで、足はかなり余っているから多分男物だろう。




着替えを済ませて体の震えがおさまらないことに気づいた。

急に気持ち悪くなって口を抑える。


「マスタ…車…止め…」


「ん?どした?もうちょっとで着くから。」


「おねが…車止めて!」


焦った声に、やっと車が止まった。


急いで扉を開けて、道端に飛び出した。

犬を連れた若い女性が驚いて立ち止まったのを気にしている余裕はない。








「うっ…おえっ…」

盛大に嘔吐した。鼻がツンと痛くなる。


「うえっ…っ…」


止まらない吐き気に、体がガタガタと震える。



「だ…大丈夫…?ですか?」

女性が心配そうに声をかけてくる。

でも今は、そんな親切を受け止める余裕なんてない。


「うっ…ゲホっ…見…見んな…うえっ…」


それでも立ち去ろうとしない女性に、エンジンを止めたマスターがすみませんねと声をかけた。


「大丈夫ですから。ありがとう。」


女性はそれを聞いて安心したのか、すぐに立ち去った。



それから暫く、道端に蹲ったまま動けないでいた。



気持ち悪い。

自分が。汚い。臭い。




急に身体中が腐っていきそうな感覚に襲われた。



汚い汚い汚い気持ち悪い。




背中を撫でるマスターの手を振り払う。



「…さわんな……」


「よみちゃん…」


マスターはそれ以上は何も言わずに、少し離れたところに腰をおろした。




たまに通る通行人が、いぶかしげにこっちを見てくる。





汚いものでも見るようなその視線に、耐え切れなくなりそうだった。




あぁ___マジで死にたい。




頭を掻きむしって立ち上がると、マスターと目が合った。



「落ちついたか?」


近づいてくるその影に、私は後ずさった。



「大丈夫だ。俺だよ。分かる?よみちゃん。」


「うるさ…来ないで…」



誰にも近寄られたくない。

誰にも触られたくない。


誰とも、喋りたくない。





それでも距離をつめてきたマスターに背を向けて、私は走り出した。



「ちょ、よみちゃん!?待ってどこいくの?」



見慣れない道。ここがどこかもわからない。


街頭の少ない一本道を、全速力で走った。


けれど…


「…っ……」


足がもつれて膝を地面に打ちつけた。


すぐに追いついてきたマスターに抱き起こされる。



「嫌だ!触んな!」

「よみちゃん…しっかりして」

「うるさい!離してよ!」




「……離さねーよ!」


急に聞こえた大声に、身体がビクンと反応した。