「では始める。お前のその頭の傷は何?」


「ん?これ?関係あるの?」


予想外の質問に拍子抜けした。もっとこう、先週授業をいくつかサボったこととか、掃除の当番忘れてたこととか、そういう話かと思ったのに。



「いいから答える。どしたんだその頭。」


「んー。昨日の夜寝ぼけてて。トイレ行こうとしたら階段を踏み外しました。」


平然と、答えたと思う。


のに、すぐさま言葉を返された。


「だーかーらー。そういうのいいから。ちゃんと正直に答えろ。」


一瞬、全部バレているのかと不安に駆られた。でも、そんなはずはない。誰も知らないことなんだから。


「なんなの?ほんとだよ。先生今日怖い。」


「じゃあ、ちょっと後ろ向いて。」


「はぁ?なになになに?先生マジで怖い今日。どしたの?」


そんな私を無視して、背中側からシャツをぐいっと持ち上げられた。


「…!?なに…」

「この背中の痣は?これは何?」

「ちょ、いい加減にしてよ!なんなんだよいきなり。だいたいちょっと怪我してたらみんなにこんな質問してんの?」


大声を出しながら、心の中は焦りでいっぱいだった。


なぜこんな質問をするの?

何を聞きたいの?

この人は、何を知ってるの?





「あのなぁ藤沢。俺は暇じゃない。いちいち怪我してる奴らなんて呼び出すわけねーだろうが。」

「だったらなに?なんでそんなこと聞きたいの?」


「背中の痣は今日お前がシャツめくって汗拭いてる時にたまたま見えた。普通転んでそんなとこに青痣なんかできない。

それから頭。お前は反射神経が悪くない。なのに転んで頭からいくとは考えにくい。まず手つくだろ普通は。」


確かにそうかもしれない。


だとしたら、何だと思ってる?まさか本当のことは知らないだろう。

考えろ、考えるんだ。



「おまけにお前は帰宅部。だろ?だとしたらなんかやらかしたんじゃねーかって考えてもおかしくはないだろ。」


……うん?


やらかした?ああそっか、他校と喧嘩でもやらかしたと思ってるのか!


閃いてしまったら、一気に冷静になった。



「うん、そうだよね。」

「で?相手はどこだ。」

「制服着てなかったからわかんなかったよ。ちょっと喧嘩に巻きこまれただけ。」

「本当か?お前は手出してないのか?」

「出してない。誓える。」

そこまで言うと、山口がふーっと息をついた。



「んならいいわ。なんで最初っから正直に言わねーんだよ。馬鹿かお前は。」

私が他校の生徒に手を出したかどうか、そこを聞きたかっただけらしい。


ありもしなかった喧嘩なんだから手の出しようがないのに。なんか笑ってしまいそうで、欠伸でごまかした。


「もう帰っていい?」

「うし、いいぞ。時間とらせたな。」

「あーい。」

「あんまり夜出歩くなよ?」

「あーい。失礼しましたー。」





パタンと扉を閉めてから、ため息が漏れた。




なんだか授業を受ける気になれない。

教官室を出て、そのまま保健室に向かった。