タバコを吸いながらぼーっとみんなを眺めていたら、首筋に冷たいものが押し付けられた。



「んあーっ、冷たっ」

振り返るとコーラの缶を持つ太陽さんが悪戯っぽく笑っている。


「びっくりした。」

「びっくりさせたからな。」



ぐびっと一口煽って、それを渡してくれた。


「太陽さんは桜好きですか?」

「なんだいきなり。」

「あのみんなが器用に避けてるの、桜でしょ?」


大木は満開の花を咲かせている。

たまに舞う花びらの中をバイクが駆け抜ける様は、幻想的だった。


「花ん中で1番好きだよ。」

「花の中で?」

「ん。桜ってすぐ散るじゃん。花咲くまでに1年も準備して、そんでやっと咲いたと思ったら2週間ともたねぇ。なんかな。その待ってる儚い時間が好きなのよ俺は。短い満開のために、その何十倍も待ってる時間が。」


「ふーん…」



案外ロマンチストなんだな。

そんな太陽さんもかっこいいけれど。





「よみはもう3年だろ。卒業したらどうすんだ?」


「ん、まだ決めてない。」


「だったら…俺の高校受けろ。俺とはダブんねーけど、知り合い多いしなんとかしてやれる。」


「……太陽さんがいないなら行ってもしょうがないじゃん…」


「んなかぁいいこと言うなよ」


短く笑ってあたしを抱きしめた。



「俺来年卒業だからな。高校出たら今みたいに遊んでばっかもいらんねー。親父の知り合いの店で働かせてもらうことは決まったんだけどな。そろそろこのチームも世代交代の時期だしな。」


みんな大人になっていく。

私を置いて、みんな自分の道を見つけていってしまう。



「よみはまだあの男のこと忘れらんねー?」

久々に話題に出てきた大地のことを考えた。


不思議なくらい、もうなんとも思わない。たまに夢に出てくるだけで、もう一度大地と付き合うなんて考えられなかった。


「今考えてみたんですけど…全然なんとも思わない。」


正直に言うと、太陽さんが嬉しそうな顔をした。


「ほんとか?ほんとになんとも思わねー?」


「ん。ほんとに全然なんとも。」



はーっとため息をついた太陽さんは、あたしの口からタバコを奪った。


「なぁよみ。真剣に聞いてくれよ。俺、来年から3年、ガチで働くから。よみが高校行ってる間。金貯めて、働く。だからな、よみが卒業したら、……俺と結婚しろ。絶対、世界で1番よみのこと大事にすっから。」



思いがけない言葉に、一瞬頭がフリーズした。少し向こうで、男子どもがはしゃぐ声が聞こえてくる。



それを遠くに聞きながら、私はゆっくり頷いた。



「…やば……」

まさかこんな言葉を聞くことになるなんて想像もしてなくて、涙がこぼれそうなのを必死でこらえた。



「泣くなよ馬鹿。」


でもバレていたらしく、くしゃりと頭を撫でられた。




それからポケットを探っていた太陽さんは、シルバーのリングを取り出した。



「安モンだけど、ちゃんとしたの買えるまでこれつけといて。」


左手の薬指にそれはピッタリとはまった。


「…信じられない。ドッキリ?」


「んな真顔で言うなよ。嬉しい?悲しい?迷惑?」


「…嬉しい…すごく…」


「だったらもっと嬉しそーな顔すんの!ほら!やってみ?にーって笑うんだよ」


ほっぺを摘ままれて、無理やりにーっと言わされた。



「太陽さん、ありがとう…」

「ん。」



山の向こうで、太陽が沈もうとしている。

日が落ちるまで、私たちは長いキスをした。