「…相変わらずいい曲だな。」
「ありがと」
彼女のつくった音源を聞かせてもらい感想を述べると彼女は小さく笑った。少しだけ直すところを言うとすぐに直してしまったためそのまま練習を開始する。
レコーディングルームの向こうで音源を流す彼女と目があって笑顔を向けられると私も自然と頬が緩んだ。



彼女も疲れてるようだし俺も喉を痛めてはいけないので少し休憩をはさむことにする。
「飲み物買ってくるけど、なんかいる?」
『いいの?』
「ああ」
『じゃあ、お水をお願い』
「分かったよ」
『ありがとう』

飲み物を買って戻ると彼女は椅子に座ったまま眠っていた。
俺は誘われるようにして彼女に近づき、彼女の唇に自らのそれを触れさせた。それは一瞬ですぐに離される。

彼女は泣いていた。瞳を閉じたまま静かに涙を流していた。

「好き、なんだよ…」

彼女の髪に触れるとさらさらとこぼれ落ちていき、それを眉根を寄せた細目で見る。
こぼれた彼女の涙を人差し指と親指で軽くぬぐって、自分の唇に押し付けた。
先程まで彼女に触れていたはずの二つは合わさるととても冷たく感じて、胸が締め付けられた。





『ごめん、寝ちゃってた…』
「いいよ、疲れてたんだろ?」
『うん…。お水ありがとう、ね』
「ああ」

しばらくして彼女は起きた。
練習は何事もなかったように再開された。
唇をなめると甘くてしょっぱい味がした。

その日、とてもいい曲が完成された。
甘くて切なくて、まるであの時の唇の味のような…______________







『眠り姫にキスを。』END