『こんばんは。』
その優しい微笑みは俺の動きを一瞬止めさせた。

彼女は優しかった。
パーティーでみんなが俺を遠巻きに見るなか彼女だけはなんのためらいもなく俺に話しかけた。
それはもしかしたら新人だからという考えがあったからかもしれない。だけど、俺は嬉しかったんだ。ずっと一人でいたから。天才だからなんて遠巻きにささやかれるのももう慣れてしまった。天才なんかじゃない、俺は努力だけでここまでやってきたんだ、そう言いたくてもそばに来るやつなんているはずもなかったから。

「こんばんは。お一人なんですか?」
『はい。私、こういうのは初めてで…一人だから余計に緊張してます。』
困ったように苦笑した彼女に俺はもう捕まっていたのかもしれない。
「よかったらもう少し俺と話しませんか?」
驚いたようにまばたきを繰り返した彼女はうれしそうに顔を綻ばせて頷いてくれた。

あそこで初めて話しかけてくれた彼女は作曲家。
彼女となら最高の曲を作ることができるのではないか、どうしてかわからないけどそう思った。

次に会えたのは急だった。
「あ、」
『こないだの…』
漏れてしまった声に気がついて彼女の視界に俺がはいる。なんとなく気恥ずかしくて口許を押さえていた手を下ろすと笑いかけた。
知り合いなんですか?と近くにいた関係者にきかれ、ええ、まぁ…と言葉を濁すと彼女も小さくあたまをさげた。
『今回、作曲を担当させていただきます。よろしくお願い致します』
「よろしくお願いします。」
手を差し出せば彼女の小さな手が遠慮がちに触れて、それがどうしようもなくうれしくて頬が緩んだ。




「お願いします」
『はい。もちろんよろこんで』
彼女に専属になってほしいと依頼すれば、いつもの柔らかい笑顔で俺を受け入れてくれた。

彼女がつくる曲は最高で、甘く切なく時に情熱的に想いをぶつけるような。
俺も負けじとその曲に見合う歌声をのせる。