なんでも父は、わたしを拾うその2ヶ月前に奥さんを亡くされ、命の尊さをあらためて知ったそうだ。
父は山道に捨てられていたわたしを哀れに思い、見て見ぬふりができなかったと、そう言っていた。
今となっては遠い過去の話。
……あの頃が懐かしい。
「お父さん……」
わたしが父と過ごした日々のことを思い出し、涙していた時だった。
ふいに誰かの気配がして、体が凍りつく。
まさか、『彼ら』だろうか。
嫌な考えが頭に過ぎる。
ううん、でも『彼ら』はわたしの恐怖を煽(アオ)るために人数が少ない時にしか狙ってこないはずだ。
だからきっと、『彼ら』ではないはず――。
わたしは、縁側を挟んだところにある明るい光の見える部屋をチラリと見た。
みんながいる明るい部屋と、わたしがいるこの庭は、見えない壁で隔離されているように感じる。
――ああ、今、わたしはひとりで薄暗い庭にいるんだ……。



