決断を下すことができず、杏子さんの方をチラリと横目で窺(ウカガ)えば、彼女の頬から、光る筋が見えた。
それはまぎれもなく、彼女が流す、涙だ。
杏子さんの魂は眠っているハズで意識なんてない。
それなのに、杏子さんは涙を流していた。
それはきっと、愛おしい人を想う涙。
……そう。
そうだね。
誰だって、好きな人を自分の手にかけてしまうのは苦しいよね。
自分が生きたとしても、代わりに大切な人がいなくなっていたら、悲しいよね。
わたしは杏子さんに絡まっている鎖を持つ手に力を入れた。
「紗良くん?」
「わたし……倉橋さんに死んで欲しくない。杏子さんにも悲しんで欲しくない。
紅さんには生きて欲しい」
だから……。
だから!!
「倉橋さん、ごめんなさい」
「紗良くん? ヤメロ。ダメだ。やめてくれ!! いやだ!!」



