「――断る」
「なに?」
わたしが考えあぐねていると、紅さんの静かな声が沈黙を破った。
「わたしは誰の命令も受けない。紗良がここにいると言うのなら、わたしはここから出ていかない。
紗良、わたしはどんな君でも愛している」
揺るぎない紅さんの言葉が、わたしの胸を貫く――。
紅さんは、杏子さんの体を通して、中にいるわたしに訴えかける。
「くれないさん……」
どうして?
どうして、こんな時にそういうことを言うの?
わたしはもう、この世から消えると決断したのに……。
「紅さん……わたしは……もう」
「君を置いて逃げることなど、どうしてできようか。愛おしい我が妻は君だけだというのに……」
『わたしは消える』と、そう言いかけたわたしの言葉を遮(サエギ)り、紅さんは続けて言う。
その言葉が、わたしの胸を熱く焦がしていく――。
その声は、とても情熱的で、優しいもの……。



