地面からゆっくり顔を上げていく……。
「っつ!!」
どうして?
わたしは自分の目を疑った。
「紗良、そんなことはしてはいけないよ……」
その声は、わたしがとてもよく知っている人の声。
穏やかで、優しくて……あたたかい人の声。
いつもわたしに微笑んでくれる、弧を描く唇。
だけど、その唇は、今は苦しそうに歪んでいる。
どうして……。
どうして……。
どうして?
「なんで……紅さん!?」
――そう。
わたしが霊力を当てたのは、女の人じゃない。
紅さんだった。
わたしの霊力が当たった紅さんの腹部は、血液が絶え間なく溢れ、地面へと流れていく……。
紅さんの後ろに守られるようにしている女の人は、白目を向けて気を失っていた。
女の人は擦(カス)り傷だけで、ほぼ無傷な状態のままだった。



