わたしがドアノブに手をかけた直後、聞こえてきたのは女性の声だった。
その声は甘えるような、鼻にかかったものだ。
『紅』
たしかにその女性は、そう言った。
やっぱり、紅さんはこの部屋にいるんだ。
女の人と紅さんが……もしかするとふたりっきりで……。
わたしは紅さんと女の人が話している内容が気になって、ドアノブを回そうとした手を引っ込め、耳をドアにくっつけた。
全神経を集中して、耳をそばだてれば、人の息遣いはわたしが思ったとおり、2人分しか感じなかった。
「香納(カノウ)さん……」
「ね? いいでしょう? 貴方が好きなのよ……」
「貴女には感謝しています。こんなにいい場所を紹介してくれたんですから。
でも、わたしには大切な人がいるんです」
「いつの間にそういう人を見つけたのかしら……。
相手がどんなに美人でも可愛くっても私は諦めないから……彼女さんから貴方を奪ってみせるわ。
覚悟してなさい」



