だけど、紅さんはわたしの表情を見ても顔をほころばせるだけだ。
「ほら、その顔。
桃のように色づいた頬を膨らませて、濡れた黒真珠の瞳を上目遣いにしてわたしを見て……。
真っ赤な唇を突き出していると、もっと口づけをせがんでいるように見える」
「!!」
紅さんはどうあってもわたしを追い詰めたいらしい。
紅さんの唇が触れるか触れないかの距離で、そっと囁(ササヤ)かれた。
言いようのない羞恥と、だけど好きな人にこうして愛を告げらているという嬉しい感情がない交ぜになって、わたしを襲う。
いつまでも紅さんの腕の中にいるのは、嬉しいけれど心臓に悪い。
イヤっていうほど心臓の鼓動が速度を上げている。
どうしたらこの鼓動が治まるのかわからなくって、紅さんから視線を外して周囲を見渡した。
とはいえ、大好きな紅さんから意識を逸(ソ)らそうなんて、無謀(ムボウ)ともいえる行為なんだけれど……。



